
情報システムは、企業が業務を円滑に進めるための重要な基盤です。そのシステムが日々安定して稼働し、トラブルなく利用できるようにする業務が「情報システム業務(情シス業務)」です。情シス業務は欠かせないものですが、属人化しやすいという傾向があります。この記事では、情シス業務が属人化するリスクと効果的な対策を解説します。
なぜ情シス業務は属人化しやすい?
「特定の社員しか業務内容を把握していない」という状況を「属人化」と呼びます。情報システムは、この属人化が起こりやすい業務です。
サーバーの管理手順やパスワードが担当者にしかわからない、業務マニュアルがなく口頭伝承でしか業務が引き継がれない、システム開発・保守を外部ベンダーに丸投げし社内管理できない、特定の社員しかシステムの設定変更方法を知らないというのが情報システム業務の属人化の典型的パターンです。
このような状況が続くと、企業全体のIT業務が不透明になります。そして担当者が不在になると、システム管理できなくなるリスクが発生します。
情報シスの属人化は、業務の停滞やセキュリティリスクの増大につながり、企業経営に深刻な影響を及ぼします。そのため、業務が属人化することなく、担当者が不在でも誰もが作業を代替できる状態にしておくことが望まれます。
情シス業務の属人化によるリスク
情報システム業務の属人化が進むと、さまざまな深刻な問題が発生します。
担当者不在による業務停止
第一に、担当者の退職や異動による業務停止が挙げられます。担当者が突然退職・休職・異動すると、システムの管理ができなくなってしまいます。
重要なパスワードや設定情報が不明のため、新規ユーザーの追加や設定変更ができず、システムが維持できません。この場合、業務手順書やマニュアルを整備し情報を文書化したり、IT業務の引継ぎを計画的に実施したりすることが解決策になります。
システム障害時の対応遅れ
また、システム障害時の対応遅れも重大なリスクです。システムが停止した際に、復旧方法を知っている人がいないと業務が停まってしまいます。
外部ベンダーへの問合せもできない場合、問題解決が大幅に遅れてしまうでしょう。たとえば、Webシステムがダウンしてしまった場合はすみやかな復旧が望まれますが、方法がわからない場合復旧に数時間から数日かかってしまうこともあります。
バックアップの取得・復元方法がわからなくなる
また、バックアップデータの取得や復元方法が分からないと、大切なデータを失ってしまいます。データの種類が重要なものであれば、顧客からの信頼を損ないかねません。
このリスクを予防するためには、システム運用手順を文書化し、他の社員も対応できるようにする必要があります。管理システムを導入し、障害発生時の対応を自動化しておけば、24時間迅速な対応が可能です。
業務改善・IT化に後れをとってしまう
情シス業務が属人化してしまうと、業務改善やIT化に後れを取ってしまうリスクもあります。担当者以外がシステムの仕様を理解していないため、新しいIT技術の導入が進まず、旧システムの管理を一人に依存し続けて技術的負債が蓄積してしまいます。
具体的にはレガシーシステム(古いシステム)が属人化していると、新しいクラウド環境への移行が困難になります。担当者が「昔からのやり方」を変えたがらない場合、業務効率化が滞ってしまうでしょう。
解決策はIT担当者を複数配置し、ノウハウを共有することです。外部のIT専門家と協力し、定期的にシステムの見直しをおこなうことが有効です。
セキュリティリスクの増加
他にも、セキュリティリスクが増加するという問題もあります。パスワードや重要な設定情報を特定の担当者しか知らないと、管理不備や情報漏洩のリスクが高まります。不正アクセスの防止策が適切に運用されないと、外部からの攻撃を受けやすくなってしまうでしょう。
たとえば、退職した社員アカウントが削除されず、システムにアクセスできる状態のままになったり、担当者しかサーバーの管理パスワードを知らず、他の社員が緊急時に対応できなかったりする事態を招きます。
解決策はパスワード管理ツール等を導入することでパスワード管理を組織的に実施すること、システムアクセス権限を定期的に見直すこと、退職者のアカウントを即時削除する運用ルールを策定することです。情報システム業務は特定の人に頼り過ぎず、組織全体で管理することが重要です。
情シス業務の属人化を解消する方法
情報システム業務の属人化を防ぐ解決策は3つあります。
IT業務のマニュアル化・文書化
一つめはIT業務のマニュアル化・文書化です。「この業務は○○さんしかできない」といった状態をなくすことが大切なので、新人でも対応できるようにわかりやすく整理することが重要です。システムの設定方法、運用手順をドキュメント化し、社内のナレッジ共有ツールを活用し、情報を一元管理しましょう。
IT業務の分散化
二つ目の解決策はIT業務を分散化することです。IT業務を一人に依存せず、複数の担当者で管理します。定期的な業務交代を導入することで、知識を分散します。
IT担当を一人にせず、組織の規模や業務量などに合わせて最低2~3人のチームで対応しましょう。体制をつくる際には「もし担当者が突然いなくなったら?」を想定することがポイントです。
外部ベンダーと連携する
最後の解決策は、外部ベンダーと適切な連携をとることです。システムの管理を一部アウトソーシングし、外部専門家と連携します。
専門家の力を借りることで、社内の情報システムを俯瞰でき「誰が何を管理するか」の整理に役立ちます。また、社内で担当者が変わっても引継ぎできる体制を作ることや、ベンダーに依存し過ぎず自社で最低限の知識をもつことも大切です。
まとめ
今回は、情報システム業務が属人化するリスクと、効果的な対策を解説しました。情報システム業務が属人化してしまうと、担当者が退職・休職・異動した場合にシステムの管理ができなくなります。システム障害時に対応が遅れて業務停止したり、業務改善やIT化に対応できなくなったりと、企業に深刻な影響を与えてしまうことになるでしょう。有効な対策は、IT業務のマニュアル化・文書化と業務の分散化です。「もし担当者が突然いなくなったら」を想定した体制をつくり、新人でも対応できるようわかりやすく業務を整理・共有しましょう。人材不足の場合、業務そのものを外部へ委託することもおすすめです。